成年後見制度については、近年多くの解説があらゆる場所でされているのでご存じかもしれません。ざっくりと制度の概要を知りたいという方のために、今回は成年後見制度について説明していこうと思います。

成年後見制度は、平成12年の法改正によって新たに成立しましたが、それ以前にも似たような制度はありました。「禁治産(きんちさん)・準禁治産(じゅんきんちさん)制度」と呼んでいました。現在の成年後見制度のように、認知症や精神障害などを原因として法律上の行為をするのに十分な意思能力を欠いている場合に、法律上の代理人を選定するというものです。
禁治産者には後見人が付き、禁治産者より程度の軽い方は準禁治産者として保佐人が付きました浪費者も準禁治産の対象とされていましたまた、これらの制度によって禁治産宣告や準禁治産宣告を受けると、その旨が戸籍に記載されていました

これらの制度には、改善の余地が多くありました。高齢化社会になってくるにつれ、法律上の安全性を確保するため認知症の高齢者の法律行為を制限しつつも、本人の人権保護や残存能力を最大限活用するための考え方から禁治産・準禁治産制度を廃止し、新たな成年後見制度が誕生しました
具体的には、以下のような変更点が見られました。
・名称変更
・戸籍への記載廃止、後見登記制度の新設
・身上配慮義務の明文化
・本人保護と自己決定権の尊重を重視
・「補助」の新設
・準禁治産者の事由になっていた浪費者を除外
などなど

現在の後見制度では、意思能力の段階に応じて「後見(重い)←保佐←補助(軽い)」となります。

例えば、不動産の所有者が施設に入るために、今後は居住する予定のない不動産を売却するとします。この所有者が認知症の診断をされている場合には、売買契約を締結して取引をするに際して意思能力が十分でない本人の保護のためにも、代理するべき人の存在が必要となるのです。
ところが、この場合に誰でも適当な代理人を立ててもよいとなると、本人の権利を保護することができなくなる可能性があります。そこで、家庭裁判所で選ばれた後見人等が、家庭裁判所の管理の下で代理することにより、本人の権利が害されることを防ぐわけです。
成年後見人は、未成年者(18歳未満)・家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人または補助人・破産者・被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族・行方の知れない者はなることができません。それ以外であれば、法律的には親族でもなることができますが、管理する財産の額や法律関係などを考慮して親族がなることがふさわしくない場合には、弁護士や司法書士等の専門職が後見人として選ばれます。

実際に、近年不動産取引においては高齢者所有の不動産を周りの親族が売却したいといった事例が多く、その都度所有者本人の意思能力が問題となります。このケースにおいて難しいのは、“これが答えられたらOK”というような基準はないので、その取引にかかわる不動産業者や司法書士は判断に困る場合が結構あります。
実際にご本人にお会いしてみて、財産を売却することの意味が理解できていない場合や明らかに会話が成立していないような場合には、まずは成年後見人選任の申し立てから始めることになります。

成年後見人選任の申し立ては、次のような手順で行います。

①診断書の準備
→所有者本人が普段かかりつけの医師でもよいですし、近くの精神科医などでもよいです。特に何科の医師でなければいけないというのはありません。

この診断書は、裁判所が用意している様式のものに医師が「後見」「保佐」「補助」のどれに相当する意思能力であるかといった判断を行います。診断書を依頼する時は、一緒に「鑑定のおたずね」という裁判所様式の書類も医師に書いてもらいましょう。これは、例えば医師が「保佐」相当と診断した場合に、裁判所がもっと重い状態ではないかと判断した場合にさらに詳しい鑑定をその医師がやってくれるか、やってくれる場合の費用はいくらか、をたずねるものです。これも申し立て時に裁判所に提出することになっています。

②申立書・その他の書類の準備
→成年後見の申し立ては、いくつかの書類を用意しなくてはなりません。詳しくは裁判所の案内をつけておきますので、ご参照ください。

01-2mousitatesyoruichecklist.pdf (courts.go.jp)
なお、申し立てができるのは4親等内の親族等制限があります。


③裁判所への提出
→基本的には郵送でも直接家庭裁判所に持参してもよいですが、念のため管轄裁判所に確認するほうがよいでしょう。管轄裁判所は、本人の居所を管轄する家庭裁判所です。「居所」というのがポイントです。住民票上の住所ではありませんから、申し立て時に入院している場合や施設に入所している場合には、その場所の管轄裁判所に申し立てを行います。


④面談
→申立人と裁判所の書記官や調査官が面談を行い、申立書類に記載されている内容を詳しく聞かれます。申立書作成を司法書士に依頼した場合には、司法書士も立ち会うことがほとんどです。


⑤調査
→裁判所の調査官が本人の状態等を調査します。実際に本人会うことができる状態であれば、調査官が本人の居所まで出向くこともあります。


⑥審判
→特に問題がなければ、成年後見人を選任する審判がおります。


⑦審判確定
→審判が確定しなければ、実際に成年後見人としての職務をすることができません。審判から確定までは約2週間かかります。ちなみにこの2週間は審判に不服申し立てがないかを待つために設けられています。


このように基本的に①~⑦までを経て、成年後見人として動くことができるのですが、この①~⑦に要する時間は平均すると2~3か月かかります。ただ、ケースによりますので、鑑定を要する場合などのようにイレギュラーなケースでは6ヵ月程度かかる場合もあるでしょう。

また、売却する不動産が本人の居住していた不動産の場合には、売却をするために家庭裁判所の売却許可決定をもらわなければなりません。これは、別の申し立てになりますので、さらに許可決定が出るまでに1か月程度かかることになります。

今回は、成年後見制度の概要と手続きの流れについてみてきました。実際には、周りの親族等が不動産等を売却することを希望していても、本人が認知症である場合には速やかに売却の手続きが進むことはなく、しばらく時間がかかってしまうことになります
成年後見制度は、家庭裁判所の管理下で法律行為をするので、成年後見人が自由に本人の財産を売却したりすることはできません
上記の不動産売却の例で、成年後見人に選ばれた人は不動産売買が完了したらお役御免というわけではなく、原則として本人が死亡するまで財産の管理・身上監護、さらには定期的な裁判所への報告を継続することになります。
つまり、成年後見人になる人もそれなりの覚悟が必要ということですね。


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