以前に「成年後見制度」のお話をしました。

今回は「任意後見制度」について説明していきます。

「任意」という言葉は、「その人の判断に任せますよ」という意味ですね。つまり、任意後見とは、認知症などで判断能力が低下した方の代理人の選任を誰かが申し立てて、裁判所が選任するという法定後見人と同様の手続きではなく、自らの判断でその制度を利用していくということなのです。
すなわち、わかりやすく言えば、

「もし、将来私が認知症になったら、もろもろ代理でお世話をお願いします」ということを取り決めができる元気なうちにやっておく、というものなのです。ということは、この制度を利用する方の多くは、身寄りのない方もしくは親族等が疎遠になっており、認知症になってからのことを頼る人がいないケースです。

任意後見は契約によって成立します契約は公証証書で行い、任意後見の契約がされていることが、法務局の後見の登記に記載されます

ただ、任意後見は将来において自分の判断能力が低下した時に必要となるものですから、契約した時からすぐスタートするものではありませんし、任意後見契約で任意後見人となった人もその時点では法律行為を代わって行うことができません。そうなると、いくつかの疑問が出てきます

まず、「判断能力が低下したというのを誰が判断するのか?」という疑問です。
本人自身が認知症になってからそのタイミングを判断するのは難しいわけです。そこで、任意後見契約とセットで行うのが「見守り契約」です。つまり、「私が判断能力に疑いがあるかどうか、定期的に話をして判断してね」というものです。実際には契約の中でどのように面談するかを決めますので、決まっているものではありません。例えば、「月に1回自宅訪問」という場合もあれば、「毎月電話連絡をして、3か月に1回自宅訪問」のような場合もあるでしょう。この見守り契約とあわせて「任意代理契約」というものを一緒に盛り込んでおくこともあります。これは、「判断力には何ら問題はないけれども、足腰が不自由で銀行にお金をおろしに行ったりするのが大変になるかもしれない」というケースに備えておくものです。これは、判断能力が衰えていない以上任意後見をスタートすることはできませんが、実際に寝たきりなどでは生活ができなくなるケースもでてきますから、委任状などで代わりに動いてもらったり、財産を管理してもらうというものです。

次に「具体的にはどうやって、任意後見がスタートするのか?」という疑問です。
契約で任意後見人になる人が、本人の判断能力をみて任意後見をスタートするといっても「本人の判断能力が衰えてきたので、今日から任意後見をスタートさせます!」と宣言してスタートするものではないことはわかると思います。では、どうするのか?です。

実際には、家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任を申し立てます。任意後見監督人は、一般的には弁護士や司法書士が選任され、任意後見監督人の職務を監督する役目の人です。具体的には、任意後見人は財産管理状況などを任意後見監督人に定期的に報告して、任意後見監督人が家庭裁判所にそれを報告します。つまり、任意後見が契約で行うものであるといっても、任意後見人の自由の行えるとするのは危険であるため、判断能力が低下した本人の保護のためにも、不正がないように家庭裁判所を通して監督するというわけです。いわば、任意後見監督人は、家庭裁判所からの派遣員のようなイメージです。

さて、話を戻しまして、任意後見は、この任意後見監督人が選任されてその登記がされるとスタートします

その後は、任意後見契約の中で取り決めた代理権にもとづいて、任意後見人が代理行為を行ったり財産管理を行います。もちろん、お亡くなりになるまで意思能力が衰えず、任意後見がスタートせずに終了することもあります

このようにして任意後見は進行していくのですが、任意後見契約時にセットで作成するものとして、あと2つあります。

1つは「遺言書」です。基本的には、上でお話ししたように任意後見契約を利用される方は身寄りのない方などが多いので、お亡くなりになっても財産が誰に相続されるのかが問題となります。例えば、兄弟姉妹はいたけれどもみんな亡くなっており、その子供(甥・姪)が相続人とはなるものの、ほとんど会ったこともないというようなケースの場合は、他にお世話になった方などに残すのも一つの方法です。また、まったく相続人がおられないというケースもあるでしょう。その場には、遺言がなければ最終的には国庫に帰属することになりますから、この場合にも遺言を残しておいた方がよいといえるでしょう。

もう1つは「死後事務委任契約書」です。亡くなった後は、一般的には親族が葬儀をし、納骨や役所などそのほかの様々な手続きをするのですが、身寄りがない場合にはこれらを頼める人がいないかもしれません。そこで、あらかじめ任意後見契約時にセットで死後事務委任契約を結んでおいて、亡くなってからの諸々の手続き等をお願いするわけです。
このようにして、
「見守り契約+任意代理契約」
「任意後見契約」
「死後事務委任契約」
「遺言書」
をセットで作成することで、安心してその後の生活を送ることができるというわけですね。



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